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コストベネフィット分析

個人事業主と会社設立の場合の税コスト分析

平成18年の会社法により会社設立が容易になり、株式会社の価値は低下しました。個人事業主とは取引しないという会社もあり、そういう場合は会社形態を選択するほかありません。そういう事情がなければ、とりあえず維持コストの面から考えるのも一考です。

次の事例をもとに具体的に考えてみましょう。

事例

このたび、脱サラして居酒屋を東京都杉並区に開業しようと考えています。私は現在50歳で、妻は45歳です。子供はすでに独立しています。居酒屋は夫婦二人で 切り盛りし、年間売上高は1,200万円、収入は650万円程度になると予想しています。この場合、税金面からは、株式会社を設立した方がよいでしょう か? それともしないほうがいいですか?

  • 前 提
  • 売上高            1,200万円
  • 人件費以外の必要経費     550万円

(注) 住民税、事業税、国民健康保険、介護保険については、前年の所得をベースに算定するため、実際の数字は異なります。また、国民健康保険は、お住まいの市区町村により計算方法が大きく異なりますので、ご留意ください。また児童手当拠出金については考慮していません。また所得税率等は平成20年4月1 日現在で試算しています。

個人事業主を選択する場合

事業を行う形態として、法人形態を利用せず、個人事業主として事業を行うこともできます。その場合は、商法と所得税法の規制を受けることになります。

許認可が必要な場合は、主務官庁の許可がいります。許認可が必要ない場合は、所轄の税務署に「個人事業の開廃業等届出書」「所得税の青色申告承認申請書」等を提出する必要があります。

1月1日から12月31日までの1年間で収支を計算し、翌3月15日までに所轄の税務署で確定申告を行って、年間の所得税額を確定させます。

個人事業主の確定申告は、法人の申告に比べ、申告書の数量とも簡易なので、税理士に依頼せず、ご自身で作成されている方もいるかと思います。そういった申告書を拝見する機会が結構ありますが、餅は餅屋が結果として損をしないと思います。

また、従業員を雇用した場合、5人以下の個人経営の事業等は社会保険の加入義務がありません(労働保険の加入義務はあります)。社会保険の事業主負担分は、結構な負担になります。なお、個人事業主は、国民年金、国民健康保険に加入することになります。

万が一事業が失敗した場合、個人事業主は土地家屋を売ってでも負債を返済する責任があります。


個人事業主を選択する場合でも、白色申告、青色申告のどちらを選択するか慎重に決定する必要があります。所得税に連動して、住民税、国民健康保険の金額が決まります。また保育園の保育料等は所得に応じて決定される場合が多いようです。

プラン1
会社を設立せずに個人事業主として開業します。経理の知識がないため、白色申告をしました。

プラン1現金流出額
収入金額/給与12,000,000860,000-
必要経費/給与所得控除額-5,500,000-650,000-
専従者控除額-860,000--
所得金額5,640,000210,000-
社会保険料控除-965,8230-
基礎控除-380,000-380,000-
課税所得金額4,294,000--
所得税431,300-431,300
住民税435,800-435,800
事業税137,000-137,000
国民年金345,840-345,840
国民健康保険529,983-529,983
介護保険90,000-90,000
外部への現金流出額1,969,923-1,969,923

プラン2
この夫婦には若干経理の知識があったので、青色申告をすることにしました。ただ、貸借対照表を作成するほどの知識はなかっため、10万円の青色申告特別控除のみです。妻を青色事業専従者とし、妻に300万円の給料を払います。

プラン2現金流出額
収入金額/給与12,000,0003,000,000-
必要経費/給与所得控除額-5,500,000-1,080,000-
青色事業専従者給与-3,000,000--
青色申告特別控除-100,000--
所得金額3,400,0001,920,000-
社会保険料控除-714,690-172,920-
基礎控除-380,000-380,000-
課税所得金額2,305,0001,367,000-
所得税130,30068,300198,600
住民税237,000143,200380,200
事業税30,000-30,000
国民年金172,920172,920345,840
国民健康保険460,134-460,134
介護保険81,636-81,636
外部への現金流出額1,111,990384,4201,496,410

プラン3
この夫婦は、当初は自分たちで経理をすることとを考えたものの、専門家に依頼したほうが良いと考え、当事務所に相談しました。

当事務所は、65万円の青色申告特別控除額の適用と、国民健康保険を東食国保(東京食品販売国民健康保険組合)に変更すること等を夫婦に提案しました。

全体では3万6千円程度のコストアップになりましたが、税金、経理面での手間や不安は解消されました。当事務所の開業初年度の顧問料は1年間で 315,000円(税込)になります。なお、日々の記帳を会計ソフトを利用して自分で行う場合は顧問料は189,000円(税込)で、トータルコストはプラン2より下がります。

プラン3現金流出額
収入金額/給与12,000,0002,600,000-
必要経費/給与所得控除額-5,500,000-960,000-
税理士報酬(顧問料)-315,000-315,000
青色事業専従者給与-2,600,000--
青色申告特別控除-650,000--
所得金額2,935,0001,640,000-
社会保険料控除-526,920-172,920-
基礎控除-380,000-380,000-
課税所得金額2,028,0001,087,000-
所得税105,30054,300159,600
住民税209,300115,200324,500
事業税34,200-34,200
国民年金172,920172,920345,840
東食国保(H19.4現在)296,400-296,400
東食国保(介護保険)57,600-57,600
外部への現金流出額1,190,720342,4201,533,140

会社設立を選択する場合

平成18年の会社法の施行により、会社の設立が容易になりました。株式会社を設立する場合、登録免許税等実費24万円程度、合同会社の場合は6万円程度で会社が設立できます(資本金、行政書士等の手数料は別)。それ以前は、株式会社の場合資本金1000万円が必要でした。現状では、1円から会社を設立できます。但し、1円の会社は、その後の運転資金が不足するのは明らかです。消費税の納税義務を睨みながら1000万円未満の金額で、最大限出資できる金額を出資した方がよいかと思います(設立費用は変わりません)。

なお、資本金は会社経営に使用できる資金です。会社設立の際に、資本金を振り込んだ通帳を、記帳しコピーして法務局に提出するだけなので、コピーを取った後は、自由に会社の運営資金に使用できます。

個人事業主の場合は、事業年度が1月1日から12月31日で申告期限が翌3月15日までですが、会社の場合は、定款で自由に選択することができます。大企業の場合は4月1日から翌3月31日のパターンが多いですが、8月1日から翌7月31日までを事業年度とし、9月30日までに申告するということも可能です。消費税の納税義務を睨みながら、事業年度を決定するのがよいかと思います。

個人事業主ではなく、会社を設立してその代表者となった場合は、代表者家族の税金、社会保険料のほかに、会社の支払う税金、社会保険料の会社負担分等も含めて、トータルに考えることが必要です。

なお、株式会社は社会保険の強制適用事業所です。社会保険料の会社負担分が大変なので、現実には加入していない会社も多々存在しますが、これは脱法行為ですので、このプランでは加入するものとして試算します。


プラン4
資本金300万円の株式会社を設立するプランを考えます。取締役に夫を選任し、妻は従業員として雇用します。夫の役員報酬額は300万円、妻には260万円給料を払います。設立費用は別途必要です。銀行から借り入れる予定もないので、初年度は会社は赤字でスタートします。また設立費用は別途必要です。開業初年度の当事務所の報酬は一年間で352,800円(税込)です。

プラン4会社現金流出額
給与/会社の売上3,000,0002,600,00012,000,000-
給与所得控除額/会社の費用-1,080,000-960,000-1,1800,572-
税理士報酬(顧問料)---352,800352,800
所得金額1,920,0001,640,000--
社会保険料控除-379,488-321,108--
基礎控除-380,000-380,000--
課税所得金額/税引前利益1,160,000938,000-153,372-
所得税/法人税58,00046,9000104,900
住民税122,500100,20070,000292,700
事業税--00
厚生年金負担分233,940197,952431,868863,760
健康保険負担分127,920108,240236,160472,320
介護保険負担分17,62814,91632,54465,088
外部への現金流出額559,988468,2081,123,3722,151,568

プラン5
新会社法の下で資本金300万円の株式会社を設立するプランを考えます。取締役に夫を選任し、妻は従業員として雇用します。夫の役員報酬額は469万2千円、妻には98万円給料を払います。設立費用は別途必要です。開業初年度の当事務所の報酬は一年間で352,800円(税込)です。

プラン5会社現金流出額
給与/会社の売上4,692,000980,00012,000,000-
給与所得控除額/会社の費用-1,478,400-650,000-11,729,640-
税理士報酬(顧問料)---352,800352,800
所得金額3,213,600330,000--
社会保険料控除-554,6280--
基礎控除-380,000-380,000--
配偶者控除-380,000---
課税所得金額/税引前利益1,898,0000-82,440-
所得税/法人税94,9000094,900
住民税198,700070,000268,700
事業税--00
厚生年金負担分341,9040341916683,820
健康保険負担分186,9600186,960373,920
介護保険負担分25,764025,76451,528
外部への現金流出額848,2280977,4401,825,668

事例の検討

結局この事例では、1,200万円の売上から、経費550万円を差し引いた現金650万円を、どれだけ手元に残せるかの問題です。

経営者の意思決定一つで、現金の流出額が大きく異なってしまいます。会社を設立するプランでは、社会保険料の会社負担額が重くのしかかり、支払額を膨らませる原因になっています。しかも、平成29年まで毎年0.354%ずつ引き上げられることが法改正によりすでに決定しているわけですからたまりません。

税金と社会保険料の支払いという面だけ考えれば、この事例の場合は、個人事業主として開業した方が、支出は少なくなります。但し、社会保険料の支出が少ないということは、それだけ将来年金としてもらえる金額も少なくなることを意味します。

プラン5では、妻の厚生年金支払額は0円ですが、年金の受取りにおいては、個人事業主のプランの場合の妻の月額14,410円の国民年金の支払いと同じ効果を生む点には留意する必要があります。50歳で起業するという前提で考えるならば、会社を設立して厚生年金を支払うのもよいかもしれません。年金については社会保険庁のホームページで簡易試算もできますから、事前に十分に検討する必要があります(年金加入記録を取り寄せ、詳細に分析することをお勧めします)。

なお、家族構成、事業の収益構造等によりシミュレーションの結果は異なります。消費税の納税義務を考えると個人事業を2年行ってから法人化する方法もあります。税理士に相談されることをお勧めします。

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